ピックルボール人気沸騰の裏でコート不足 施設ビジネスに生まれる好機
ニュースの概要
朝日新聞は、米国で生まれたピックルボールが日本でも急速に広がっていると伝えた。テニスより小さなコートで、穴の開いたプラスチックのボールを木製やコンポジット素材のパドルで打ち合う競技である。ルールが簡単で、初めてラケット競技に触れる人でも数回でラリーが続くため、「初心者でもはまる」と評判になっている。一方で、競技人口の増加に対して専用コートが足りず、体育館の予約が取れない、ラインを引き直して間に合わせるといった状況も生まれている。人気は沸騰しているのに、遊ぶ場所が追いついていない。この需給のずれが、今回のニュースの核心である。
引用元: 「初心者でもはまる」米国発ピックルボール コート不足も人気は沸騰(朝日新聞)
分析・見解
数回でラリーが続く設計が、初心者を離さない
ピックルボールの強みは、競技の設計そのものにある。コートの広さはバドミントンのダブルスとほぼ同じで、テニスの約3分の1にすぎない。ボールは遅く、跳ねやすい。だから走り回る体力がなくても、初日からラリーを楽しめる。
多くのスポーツは、面白さを感じる前に「基礎練習の壁」が立ちはだかる。ゴルフはボールに当てるだけで苦労し、テニスはサーブが入らない。ピックルボールはこの壁がとても低い。この差が、競技人口を一気に広げる原動力になっている。
年齢差のあるグループが同じコートに立てる
もうひとつの特徴は、世代を超えて対戦しやすいことだ。ボールが遅いので、力の差が結果に出にくい。祖父母と孫、運動が得意な人と苦手な人が、同じコートで競える。
米国ではこの性質が口コミを生み、家族や職場の仲間を巻き込んで広がった。日本でも、シニア層の健康づくりと、若い世代の交流の場という二つの需要が重なり始めている。単なる流行ではなく、参加者の層が厚いことが、人気の持続力を支えている。
コート不足は「失敗」ではなく、競技が先に育った証拠
コートが足りないという事態は、一見すると問題に見える。しかし、類似の事例を見れば、むしろ成長期に特有の現象だとわかる。
日本では、1990年代にフットサルが広がったとき、同じことが起きた。専用の人工芝コートが足りず、屋上や空き地を転用した施設が次々に生まれ、そこから専業の運営会社が育った。スクール事業や大会運営も、その後に付いてきた。
ピックルボールも同じ道をたどる可能性が高い。ただし違いもある。必要な面積が小さいため、テニスコート1面に最大4面を引ける。遊休地や使われていないコートを生かしやすく、参入の初期費用が低い点は、フットサルより有利である。
次の壁は、競技の「質」と運営の仕組みである
人気が高まるほど、課題も変わる。まず、体育館の床にラインを引く際の貸出ルールや、騒音への苦情である。ボールを打つ乾いた音は意外に大きく、住宅地では問題になりやすい。
さらに、初心者向けの指導者が足りず、ルールの解釈が地域ごとにばらつく。競技団体の整備と、施設側の運営ノウハウが追いつくかどうかが、普及の速度を決めるだろう。
ビジネスへの影響
遊休スペースを持つ事業者には、早い者勝ちの局面
コートが足りない今は、場所を持つ事業者にとって好機である。たとえば、利用が減ったテニスコート、閉店した店舗の駐車場、倉庫の空き区画、屋内の体育施設などが候補になる。
まず、既存設備でどれだけ面数を確保できるかを試算するとよい。初期投資はラインテープ、ネット、床材の調整程度で済む場合も多い。時間貸しの料金設定は、近隣のテニスコートやフットサル場の価格を目安に、まず小さく始めて稼働率を見ながら調整したい。
用品販売とイベントで、コート以外の収益を組み立てる
収益はコート使用料だけではない。パドルやボールは消耗が早く、買い替えの需要が続く。初心者向けの貸出セットを用意し、気に入った人に購入を勧める流れは、スポーツ用品店だけでなく、施設運営者も使える手法である。
加えて、地域の企業や自治体と組んだ体験会は、集客の費用を抑えられる。健康経営に取り組む企業は、社員向けの運動機会を求めている。法人向けの定期レッスンや、福利厚生の一環としての貸切利用を提案できれば、平日昼間の空き時間を埋められる。
騒音と安全への備えが、長く続けるための条件
注意したいのは、近隣対策である。打球音を抑える静音ボールの導入や、利用時間の制限は、開業前に決めておきたい。けがの予防として、準備運動の案内や保険の整備も欠かせない。
人気の波に乗るだけでなく、地域に受け入れられる運営を最初から設計できるかどうかが、数年後の差を生む。